Stradivarius Viola(1713) story

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 アントニウス・ストラディヴァリウス(1644年頃〜1737年)はイタリア北部の街クレモナで著名
であった弦楽器製作者ニコロ・アマティに師事し、弦楽器の進化に大きく貢献した製作者と伝えられ
ています。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどを製作し、その作品は300年後の現在でも至高の名
品と謳われています。                                   
 イラストレーションにしたヴィオラの表板は柾目のスプルース、背面と側面には虎斑模様が浮かび
上がったメープルが使われています。イラストレーションでは、これらを丹念に書込むことで、美し
い曲面を表現することが出来ます。                             
 ストラディヴァリウスの時代、楽器に対して新たな需要が生まれました。貴族の私室から公共の場
へと演奏の場が移って行き、演奏者は大きなホールの後部座席まで届く音を求めました。それに答え
ることができたのがストラディヴァリウスでした。ですが、良く聴こえる音とは、単に大きな音では
ありません。音楽家たちは大きなホールで聴かせるために色々な工夫をしたようです。その一つがオ
ーケストラピッチを上げることです。人の耳には高い音、純粋な音、自らに大きな影響を与える音=
人の声が感応的なのです。そう、心に響く音。単に大きな音ではなく、心に響く音であることが大切
と思われます。これは現代の認知心理学の回答とも一致します。                
 ストラディヴァリウスの楽器がなぜ優れているのか?との議論がありますが、心に響く音色である
ことが鍵になるのでしょうか。                               
 世界的に著名な日本の弦楽器製作者の無量塔蔵六(むらたぞうろく)氏から「ストラディヴァリウ
スは純粋な木工技術上はそれほどレベルの高いものではないのです。木工技術だけなら現代の方が上
です」とお聞きしたことがあります。木工技術を越えた謎のテクノロジーがあったと考えるべきでは
ないでしょうか。                                     
 ペストで次々と働き手の家族を失ったニコロ・アマティはそれまで家族でしか継承しなかった弦楽
器製作の技術を残すため、外部の弟子を取ることを決意しました。もしニコロ・アマティが弟子を取
ることがなかったら、ストラディヴァリウスの名器も生まれなかったかも知れないのです。ニコロ・
アマティは弦楽器の製作技術を高めただけではなく、更に広く伝承することにも大きく貢献したので
す。これも一つの革命と言えます。                             

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 楽器を仔細に眺めていくと構造の秘密が見えてきます。弦を支えるブリッジの片側の表板下にはサ
ウンドポスト(魂柱)という棒が差し込まれブリッジを内側から支えます。ここが振動の中心になり
ます。ブリッジのもう片側の下にはバスバーという湾曲した細長い棒が縦に貼付けてありブリッジに
伝わった振動を表板に広がらせます。厳密に厚みをコントロールしながら緩やかにカーブを描いて削
られた表板は振動板として音を出します。背面の硬いメープルは表板の振動板が発した音を跳ね返す
反響板になっています。ストラディヴァリウスたちは一つ一つ音を確かめながら膨大な時間と工程を
費やしてこれらの構造を進化させました。                          
 出来上がった楽器は、良く響く美しい音色とそれ以前の楽器とは比べ物にならないほど、健やかで
明るい形の美しいデザインを現実のものとしました。                     
 この魅力を目の当たりにした当時の演奏者たちが惹き付けられたのは、想像に難くありません。 
晩年のガリレオ・ガリレイはストラディヴァリウスの師匠アマティのヴァイオリンを、知り合いの神
父に薦められて所有していたとの記録があります。高名なリュート奏者の息子であったガリレオは、
地動説のためローマ教皇庁から幽閉を命ぜられ、さらに視力まで失っていました。そこで手にするこ
とができた最先端のヴァイオリンは、甚く彼を喜ばせたことでしょう。             
                  全長 650mm × 巾 239mm × 奥行き 104mm、重量 665g

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